今更言っても始まらないが、工大に行くのには、運動部の人たちが崖を削って作ってくれた隠れ階段が存在していた。階段は、二箇所あったが、ひとつの方は正式な道路「まぁ、正門」の二十メートル手前から右斜め上に鋭角に上る階段だ。殆どの工大生や徒歩で来るタフな教授の方々は、この階段を行き来する。通常の舗装された道路は、乗り物で通勤通学する人たち専用であり、徒歩の貧乏人には遠回りであり、体力の消耗につながる。そんなことをするのは、体力を向上させたい奴か、足りない連中と相場は決まっている。近道を知らない奴もいるのだ。
恥ずかしながら、この俺も、半年の間、何も知らずに通学していたので、足りない連中というのは止めにしておこう。だが、今思うと足りなかったんだ。
「あんなところを登って、どこへ行くんだろう?」と疑問に思っても、誰にも聞かなかった。正門の左横から、五六十センチ飛び降りたところから、左下に幅50センチほどの路地がある。しかし、ズボンが汚れたらと思い、どこに続くか解らない路地風の道に踏み入らなかった。
「おい!木村。お前、何処に行くんだ?」
友になった市原と一緒に話しながら帰る途中、正門の所で声を高らめた。
「向こう」
「遠回りするのか?」
「いつもこっちから」
「馬鹿じゃないのか?。15分も時間の損だよ。」
「その路地は、何処に行くんだ?」
「いいから請い!」
木々に囲まれた、小路を行くのはいやだたったが、少しいやな顔をしたかもしれないが、後をついていくことにした。程なく、40センチほどの壁石の上に来ていた。
「五分とかからないだろ。」
少々驚き風にうなずいたのは、前期試験の最終日だった。
その後、数回市原は俺を馬鹿にするときこの話をした。
しかし、二月後から、馬鹿にしなくなった。
新しい近道を教えてやったからだ。それは、もっと急な道ではあったが、もっと手前から、食堂の裏に出る道だった。講義が終了して、学舎からかに駐車場を超えた熊本よりの学食でカップジュースを飲んでいたら、市原が現れた、奴は電子化で、俺は土木、人を間違えて話しかけたそいつも小説を書く趣味があり、見せ合おうということになった。ただ、互いに見せるほどのものはお互い書いていなかった。書き終えた作品ではなく、いつ書き終えるか解らないその作品を早めに書いて、見せ合おうと約束したのだが、夏休みを過ぎても互いに作品は未完成のままだった。
学食で、あるいは、市内下通の「ぶらうん」という画廊喫茶で、はたまた銀座通りの紀伊国屋書店熊本店、そんなところでやたらと話をした。
学食であった市原は
「今日は、遠回りで帰るのか?」と言ってきた。
あれは、ニヤッと笑い、「一緒に帰るか」といった。
「俺の教えてやった道でいいのか」という。
「別のみちさ。」と答える。
「はあ〜」と呆れ返った顔をする。入学して知り合ったときは、話しかけた俺のほうが、少し有利にたっていたかもしれないが、あの近道の件で、背の小さい市原にお株を取られっぱなしだった。
「遠回りして帰るのは、真っ平だぜ!」
善は急げだ!。残りの一口を飲み干し、奴の方を叩いて「行くぞ!」と言い。学食の裏口に向かった。
「何処行くんだ」とついてきたが、「俺も喉渇いてんだ」
「チッ!しょうがないな」と立ち止まり。「どっか座るか?」と振り向いた。
「どうしたんだ。変だぞ今日は」
どうでもいいことだった。バンドした本をテーブルに置くと椅子に座った。しばらく、俺の顔を煮ていたが、頭をかしげて買いに行った。セブンスターに火をつけて、リビトの四百字原稿箋を内ポケットから取り出し、書いてるところまでの枚数を数えた。
「ここで書くのか?」
戻ってきた市原は、もう半分飲んでいた。椅子を引くと、座り「あと、どれくらいで終わるんだ?」
「書けば書くほど長くなるんだ」
「当たり前だろ」
「最初は、五十枚ほどの短編にしようと書き始めたんだけど、これで三冊目、百三十枚を越してしまい、主人公に新たな問題が持ち上がったんだ」
「それで?」と興味を示してきた市原を見て。
「お前、読んでないのに解らないだろ」
「だったら、その問題は、別の小説に書くとして、その新しい問題は起こすな。止めろ。そして、必要ないところは、没にしろ。完成させろ。早く。」
「この新しい問題で、主人公の生き方が正統化される。」
「その主人公、犯罪者か?」
「いや、ただの恋愛ものだけど」
「今まで書いたものを、五十枚に縮めろ。そして、明日<ぶらうん>で会おう。」
「なんでだ?」
「七十三枚。完成したぞ!。」
「ここに持ってるのか?」
「いや、半分は家。後半はここにある。」
「最後を見せろ。」
「馬鹿コケ!同時に見せ合う約束だろが!」と立ち上がる。
「よし!。お目の言うとおりに完成させる。帰るぞ!」
「Oh!」テーブル越しに、右手を挙げ叩き合う。
俺は、舞い上がった気持ちを胸に、市原の跡を追って表に向かっていたが、「待て!方向が違う。」
裏口から出て、崖の雑草の少ないところに案内した。
「この崖を、飛び降りるとか?」
「まぁ、こっちだ」と、雑草のところに入り崖に沿って降りていくと、上からは見えないところに、縄が張ってあり、急な坂だが、安全に降りることができる。
降りてしまうと下からも道があると解らない。
「早い早い。あっという間だ。誰に教えてもらった。」
「少林拳の友達」
「しかし、これだけ急だと登るのは、無理だな」
「登るのは、あっちだな」と答え。これで対等になったことを、互いに認め合った。
あれから、一年半も過ぎていた。三回生初日の講義が始まろうとしている。やはり、あの子は建築科だろうな、新一年だろうな。などとおもいながら、学舎に向かった。
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